ここでは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の調査結果報告書(H29.2.28)が引用する医学文献等(20件及びその引用文献)を掲載する。 それらは国政が認めたものであり、司法も判断上の根拠として採用しており、最重要である。


❶「処方薬乱用・依存からみた今日の精神科治療の課題、ベンゾジアゼピンを中心に」(松本俊彦)臨床精神薬理2013年第16巻6号、PMDA2頁で引用

(1)松本は、「薬物依存臨床の現場では,いまや睡眠薬や抗不安薬などの精神科治療薬は、覚せい剤に次ぐわが国第2位の乱用薬物となっている現状があり,患者の大半がその乱用薬剤を精神科医から入手しており,じかも,一般精神科治癒の過程で処方薬の乱用・依存を発症していることを指摘した。」とする。

(2)また、「鎮静薬関連障害患者は,覚せい剤関連障害患者に比べて,女性の比率が高く,比較的若年であることに加え,反社会的な生活歴(逮捕・補導歴や反社会的集団所属歴)を持つ者が顕著に少なかったのである。これは,わが国において,新しいタイプの薬物乱用者層が出現したことを意味している。」とする。

(3)一方で、松本は「これらのBZは,適量摂取による致死性が低い一方で、衝動的な患者の場合には,BZの脱抑制作用により,自傷行為を誘発したり,自殺念慮の行動化を促進したりする。」としており、松本はこれらの「奇異反応」は既往のパーソナル障害等がある患者が発症するとしている。しかしながら、PMDA調査結果の結論で「奇異反応はあらゆる投与患者で現れる可能性があるとされているため、松本説は認められていない。松本の考え方は、1960年代初頭の考え方であり、H29年の医薬品添付文書の改訂において否定されている。

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処方薬乱用・依存からみた今日の精神科治療の課題、ベンゾジアゼピンを中心に(松本俊
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❻「BzRAs依存を見極めるポイント」(稲田健)薬局2015年66巻12号、PMDA4頁、11頁で引用

(1)Coming Soon

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BzRAs依存を見極めるポイント(稲田健)NEW.pdf
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❻の引用文献、❻’「各国におけるベンゾジアゼピンの使用動向とわが国の間題点」(尾崎茂)、臨床精神薬理2013年16巻6号

(1)尾崎は、はじめにで「BZはそれまでのbarbiturate系睡眠薬に比較して耐性,依存形成,大量服用時の致死性が低いなどの利点があるが,一方で,反跳性不眠,前向性健忘,臨床用量依存などの問題もある.臨床現場にはBZ乱用・依存の症例が少なからず存在し,その多くは医療機関からの処方が使用の契機となっている。最近,国内では自殺対策の中で向精神薬の過量服用が問題となっており,日本精神神経学会からも過量服用に関する声明文が出されている.」とする。

(2)また、「処方率は加齢とともに増加し,女性で高い傾向がみられている。」とし、すでに、「BZと死亡率、認知症、高齢者の転倒骨折等の相関関係の存在、国内の自殺既遂者の58%が自殺時にBZを服用」などについて報告している。

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各国におけるベンゾジアゼピンの使用動向とわが国の間題点(尾崎茂).pdf
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⓰GAD研究会が提唱する本邦における「GAD治療手順」(中込和幸他)、臨床精神薬理2008年11巻8号、PMDA8頁で引用

(1)PMDA8頁で「全般性不安障害(GAD)の薬物療法は症状に応じて単剤を主体とし、適宜併用療法を行う。薬剤選択の候補として、不安感が強く、早期に不安を解消する必要がある場合及び不眠、自律神経症状や筋緊張などの症状を有する場合にはBZ が推奨されており、依存性を考慮して投与量・期間は必要最小限にとどめることとされている。BZ は2 週間で効果判定し、有効の場合は依存性を考慮して早期の漸減を視野に入れて治療を維持する。」とされる。

(2)本論文で、すでに、「12カ月維持で、BZDの場合は漸減を検討する」とされている。

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GAD研究会が提唱する本邦における「GAD治療手順」(中込和幸他).pdf
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⓱「てんかん治療ガイドライン2010」(日本神経学会)、PMDA8頁で引用

(1)PMDA8頁で「それぞれの薬剤の副作用として、BZ系抗てんかん薬による離脱時の急性精神病症状、フェノバルビタールによるうつ状態や精神機能低下、クロナゼパムによるうつ状態、クロバザムによる軽躁状態があるとされており」とされるとおり、また、多数の外国文献でも同じ副作用が警告されている。

(2)クロナゼパム(商品名:ランドセン、リボトリール)は、それ自体の副作用に、離脱時の急性精神病症状及びうつ状態・うつ病が指摘されている。

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てんかん治療ガイドライン2010(日本神経学会).pdf
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⓴ベンゾジアゼピン系薬剤による奇異反応:攻撃性,暴力を中心に(倉田明子,藤川徳美)、臨床精神薬理2008年11巻2号、PMDA11頁4行目で引用

(1)PMDA11頁で「BZ 受容体作動薬の承認用量で発現することが報告されている奇異反応については、リスク因子として環境や対人関係などでの著明な葛藤下にある患者、もともと敵意や攻撃性の

強い性格の患者、中枢神経系の抑制機構に脆弱性を有する患者(精神病の既往、脳器質障害、小児、高齢者など)等が知られているが(臨床精神薬理 2008; 11(2): 253-259)」とされていた。

(2)しかしながら、PMDAは続いて、『あらゆる投与患者であらわれる可能性がある。したがって、現行の添付文書における奇異反応に相当する刺激興奮、錯乱等の副作用に係る注意喚起である「統合失調症等の精神障害者への投与により、逆に刺激興奮、錯乱等があらわれることがある」のうち、奇異反応に相当する副作用があらわれる特定の患者集団として記載されている「統合失調症等の精神障害者」等の記載を削除することが望ましいと考える。』と結論付けた。これにより、ベンゾジアゼピン副作用の1つの奇異反応に関する添付文書の記載が改められた。つまり、BZを服用すれば、誰でも奇異反応を発症するリスクがあることが明らかになった。

(3)倉田は「BZ系薬剤の奇異反応とは,薬剤の効果として期待される作用とは反対の反応を言い,具体的には,不安,焦燥,気分易変性,攻撃性,敵意,興奮などを呈するものであり,臨床用量の範囲内で生じる。」,「奇異反応の治療は,原因薬剤の中止が原則であり,基本的にそれにより改善する。しかし,手術時など速やかな改善を必要とする場合や,攻撃性や興奮,暴力など危険な状況を招きうる場合などには他の薬剤による治療が必要となる。」とする。

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ベンゾジアゼピン系薬剤による奇異反応:攻撃性,暴力を中心に(倉田明子).pdf
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❹「BzRAsの過去・現在・未来」(辻敬一郎、田島治)薬局2015年第66巻12号、PMDA2頁、3頁、5頁で引用

(1)辻らは「薬物依存の原因はその原因薬物にあるという認識にはなかなか至らず,個人の問題(人格や意思,養育環境など)を原因とする考え方がBzRAs登場後もしばらく続いていた。」とする。

(2)また、「BzRAs依存は,快楽目的での使用による乱用(abuse)や中毒(addiction)などの医療外使用によるものではなく,医療上の使用で生じる依存(dependence)であり, BzRAs依存の中核は臨床での処方に起因する常用量依存にある.」とする。

(3)そして、「BzARsの離脱症状発現の報告が続いたが,そのほとんどが大量長期服用時の離脱症状発現の報告であり,BzARsの依存は依存になりやすい体質の患者が長期大量投与した場合のみ出現するものと見なされていた。(略)、いくつかの二重盲検試験が行われ,BzARsの依存に対する認識が変わってきた。BzARsの依存の問題の中核は,乱用や医療外使用によるものではなく,臨床での処方に起因する常用量依存にあるとする考えが徐々に浸透していった。」とする。

(4)さらに、『特定のBzRAsが他のBzRAsより依存形成や離脱症状発現に結びつきやすいことを示す疫学的根拠はない」と,すべて

のBzRAsで同等に依存形成が起こり得ることを明言し,「BzRAsは短期の使用に限ること」「BzRAsの使用量の削減を段階的に行う

こと」など,その使用法にも言及した。』とする・

(5)辻らの考え方は、PMDA調査結果報告書で採用された最新のベンゾジアゼピンに対する医学的知見を示しており、正しい理解であることが認められている。

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❽「ベンゾジアゼピンの依存と離脱症状」(辻敬一郎、田島治)甲B5_松本意見書が引用③、臨床精神医学2006年35巻12号、PMDA2頁で引用

(1)本論文はPMDA調査結果報告書が引用する上記の医学文献と同様に辻敬一郎及び田島治によるものである。

(2)同報告書の2-3頁の「Ⅱ.今回の調査の経緯」は、主に辻敬一郎及び田島治の医学論文から摘出し引用されている。

(3)特に、同報告書2頁4段目で、『添付文書における注意喚起としては、多くの場合、「使用上の注意」の項において大量連用時の依存性に関する注意喚起を行っている。これは、1960 年代初頭より海外でBZ 受容体作動薬の依存性に関する報告が散見されていたが、そのほとんどが大量、長期服用時の離脱症状発現の報告であり、依存になりやすい体質の患者が長期大量投与した場合のみ出現

するものとの考え方が影響していると考えられる。しかしながら、1980 年代になりBZ 受容体作動薬の依存に対する認識が変わり、問題の中核は、濫用や医療外使用によるものではなく、医療上の使用で生じる依存であるとする考えが徐々に浸透してきている。』は辻及び田島の論文から引用されている。

(4)前項のPMDAの説明は、現在では、「ベンゾジアゼピン薬物依存」は「臨床用量依存」を中核とし「身体依存」として定義されており、「依存になりやすい体質」は関係していないことを明示している。これが近代精神医学の考え方であり、その事実から医薬品添付文書では「臨床用量依存」の診断には既往のパーソナル障害等は要件ではないと定義されている。この点は極めて重要である。

(5)すなわち、松本らによる「ベンゾジアゼピン薬物依存・離脱症状等の発症は、既往のパーソナル障害等が関与している」との説は、1960年代初頭の考え方であり、今回採用されず退けられた

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ベンゾジアゼピンの依存と離脱症状(辻敬一郎、田島治)甲B5_松本意見書が引用③.
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❹’「抗不安薬(辻敬一郎、田島治)日本臨床2012年70巻1号

(1)ベンゾジアゼピン系抗不安薬の副作用は、1)鎮静作用、2)認知機能障害、3)奇異反応、4)依存、5)離脱がある。

(2)認知機能障害は「BZの投与初期にみられる集中力低下や逆行性健忘などの認知機能障害は古くから知られていた。長期連用により,視空間認知,情報処理速度,反応時間,非言語性記憶,言語性記憶などの能力の低下がみられ,更に投与中止後には若干の改善は認めるものの完全な回復には至らないことが示されている。

(3)奇異反応は「BZは まれに本来の鎮静作用とは対照的な症状を惹起することが古くから指摘されている.これらは奇異反応と呼ばれ 代表的な症状として不安焦燥や抑うつ状態,精神病状態,躁状態,敵意,攻撃性,興奮などが挙げられる。」

(4)依存は「BZ登場当初は,他の依存性物質との併用で乱用されることが多く,精神依存,つまり薬物嗜癖があると考えられていた。しかし,投与中止後に退薬症候がみられることから,身体依存,いわゆる薬物依存であることが明白となり,更に臨床用量の範囲内で出現する常用量依存の存在が 幾つかの二重盲検比較試験で明らかになってきた。常用量依存はBZの依存の中で最も多く、最も憂慮すべき問題であると認識されている.」

(5)離脱は、「常眉量依存形成の大きな原因となっているのが退薬症候である。退薬症候とはいわゆる離脱症状や禁断症状と呼ばれるもので、治療前にみられた元々の症状以外に,様々な心理的,身体的症状や知覚異常がみられることである.その発現については,BZの長期投与や高用量投与の場合に出現頻度が高くなるといわれている。」

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抗不安薬(辻敬一郎、田島治)日本臨床2012年70巻1号.pdf
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❹”「過剰診断と処方薬依存症」(辻敬一郎、田島治)臨床精神薬理2018年21巻3号

(1)「我が国におけるベンゾジアゼピン系抗不安薬の処方状況は,世界平均をやや下回る程度であるが(図2-3),ベンゾジアゼピン系睡眠薬においては,世界平均の5倍近く処方されており(図2-4),安易な長期漫然投与の実態が浮き彫りになっている。」

(2)「海外ではベンゾジアゼピン系薬剤の処方可能日数を制限するなど 厳しい制約が設けられた(表1)12)。わが国では海外の規制当局の動きから、20年以上の遅れをとり,近年になってようやくベンゾジアゼピン系薬剤の依存に関する正式な注意喚起がなされ,保険点数削減という形でベンゾジアゼピン系薬剤をはじめとする向精神薬の処方に関する制約が設けられた。」

(3)「ベンゾジアゼピン系薬剤の依存は身体依存と精神依存の両方を引き起こしうるが,その依存形成のメカニズム解明に向けた研究が進んでいる。」

ベンゾジアゼピン系薬剤の処方量(国際連合麻薬統制委員会調べ)

縦軸:S-DDD per l000 inhabitationsperday(統計のために定義された1000人あたりの平均1日投与量billions of S-DDD)

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過剰診断と処方薬依存症(辻敬一郎、田島治)臨床精神薬理2018年21巻3号.pd
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❹’’’抗不安薬・睡眠薬を長期間使ってはいけないのかーベンゾジアゼピン系薬剤を中心にー(辻敬一郎・田島治)精神科2009年14巻6号

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抗不安薬・睡眠薬を長期間使ってはいけないのかーベンゾジアゼピン系薬剤を中心にー(
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